地域の産業としての鍵

特定の地域でのみ作られた和錠が4種類あると紹介しました。この4種類についてそれぞれ紹介していきたいと思います。

◯安芸錠
安芸とは現在の広島県のことです。安芸錠はずっしりとしていて重たく頑丈な作りになっている錠前です。鍵先も特徴的です。鍵穴の部分が裏表ともに球状にふっくらとふくらんでいて、ヒキガエルのお腹のようになっています。そのため、広島弁でヒキガエルをあらわす「ドンビキ錠」とも呼ばれています。安芸錠は現存するものが非常に少ないそうです。もし機会があれば実物を見てみて下さい。
◯因幡錠
因幡は現在の鳥取県のことです。鳥取県というと鳥取砂丘が有名です。良質な砂鉄の産地ということで、錠前にもその砂鉄がふんだんに使われています。
表面はろう付けになっていて、正面が膨らんでおり、裏側は平になっています。僧侶の座禅を組んだ姿のようだといわれるくらい重量感のある堂々とした風格の錠前です。
民芸家の柳宗悦もこの因幡錠のシンプルなデザインを高く評価していたと言われています。
◯土佐錠
土佐は高知県のことです。土佐は刀の産地として有名でしたので刀と同じ玉鋼という上質の鉄を使って錠前が作られました。鉄肌の質感が美しいことから「女肌には白無垢や・・・雨にしおるる立ち姿」と歌われたお染さんにちなんで「お染錠」と通称で呼ばれることもあります。全面には縦縞錠の段差があり、サイズは焼き物の鍋島焼と同じように統一されています。頑丈で精巧な美しい錠前です。重量感もあり、重いものでは7キロにも及ぶそうです。土佐藩主である山内一豊が錠前づくりを奨励しており、藩外不出品とされていました。そのため、現存しているものは少ないそうです。
◯阿波錠
4つめは徳島の阿波錠です。おおぶりで肉厚、重量感があるのが特徴です。豪華な飾りがつけられていて、独特なデザインのものも多いのが特徴です。
阿波は産業が盛んだったため、商人たちの富の象徴として蔵に使われていました。また、人形浄瑠璃の影響でからくり仕掛けの錠前もたくさん生まれたそうです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です